知的好奇心

本や新聞を読んでいて,
何を言いたいのだろうと流れを整理しながら読んでいるときと,
中に没頭してつい時間を忘れて読んでいるときがある.

前者は要旨・要約を主とする速読的で試験勉強的な読み方である.
後者は読み手がいろいろ想像しながら読み進むもので読み手の人としての幅や深さにより舞台の背景や解釈がいろいろ変わる読み方である.

第4次産業革命の担い手となるAI,IoTの最近の成果は目を見張るものがある.
これは応用科学の最先端である.小型化高速化の技術改革が目につくが,この研究の根幹は数学である.
表にはみえにくいが,コンピュータのオン,オフがつくる論理演算はブール代数,
パスワードとなる暗号理論は素数がもとになっている.
これらは必要に迫られてつくられた研究分野ではない.
ブール代数はブール(George Boole)が「思考の法則に関する研究」(1854年)で提唱した記号論理学であり,1930年代に中嶋章・シャノンらに再発見され「スイッチング回路の理論」として利用された.
素数については,『原論』(ユークリッド)に素数が無数に存在することの証明がある.
これは紀元前3世紀頃のことである.
暗号自体は古代エジプトの時代から存在したが,今の形の理論的研究は1949年のシャノンの研究に始まる.
公開鍵暗号は1970年代に開発された比較的新しい暗号理論である.

これらの基礎となる研究結果は偉人たちの好奇心の産物である.
偉人たちの知的好奇心から生まれた仕事を享受して今の世の中がある.
必要に迫られてやらなければならない研究もあるが,
気になるから調べてみる,面白いからやり続ける,そんなことを軸に,ものをみる,ことを進める,ということも大切でしょう.
この楽しみ方は芸術につながるものがある.
科学を文化として取り入れ,楽しめるようになるといいですね.

またAIの研究は人間の身体・脳・心の研究に直結する分野となることでしょう.
きっと偉人たちが扉を開けて待っているはずです.

東ロボくん

2013年から新井紀子教授(国立情報学研究所)のもと東大合格を目指す「東ロボくん」の研究が続けられてきたが,読解力育成の限界から「東ロボくん」計画はstopされた.

コンピューターは情報のストックは得意だが,「意味」を理解することが苦手である. すなわち,「Aの子はaである」という情報があっても「aの親はだれ?」に答えられないのである. こういったことからこの研究がstopしたようだが,これはstopではなく,新たな研究の出発と解釈すべきでしょう.

坂村健教授(東大)も 「意味を理解することはAIの限界というより,研究の最前線だ」と言っている. 松原仁教授(はこだて未来大)は 「今の手法に限界はあるが,人間とは違う学習の仕方で『意味を理解している』と いうレベルに達する可能性はある」とも言っている.

AIの技術として「ディープラーニング(深層学習)」というものがある. 膨大な画像や文字データを読み込ませることにより, コンピューターが自ら情報を分解し,その特徴を見いだすというものだが, 「東ロボくん」が東大に合格するには 「問題文と正解がセットになった文章を100万本学習することが合格するために最低限必要」だそうだ(東中竜一郎主任研究員・NTTコミュニケーション科学基礎研究所) .ちなみにこの段階で「東ロボくん」のMARCH(明治大,青山学院大,立教大、中央大、法政大)合格可能性は80%ということである.

一つ教訓,「東ロボくん」ほどでもないにしろ丸暗記の学習をしている人は意外と多い.詰まったときに「これどうすればいいの?」「こうすれば解けるよ」「分かりました」.これでは学習の効果は期待できません. きっとまたすぐに「これどうすればいいの?」を繰り返すことでしょう. 「意味」を理解するように学習の仕方を切り替えましょう. 解けない問題に出会った時が学力を伸ばす最高のチャンスなのですから.